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笠井潔 「哲学者の密室」
現象学的本質直観で推理する探偵矢吹駆シリーズ第4弾、らしい。ハルバッハとガドナスという哲学者がパロディとして出てくるのでそれだけでも面白い。何しろハルバッハは「シュピーゲル対談」でよく知られる「醜いハイデガー」そのまんまなのだから。とってつけたような謎の刺客の襲撃とか、主人公の古風な描写とか、闇市場とか、定期的に鼻白みながら読んだけど、描写力が何といっても素晴らしいし、とても丁寧な作りで面白いです。セリフが反射的にカチカチと無駄がなく、サクサク読める探偵小説の見本みたいな感じ。/「宙吊りの死」あるいは「絶え間のない死」というものは、第二次大戦とりわけアウシュヴィッツの死であり、そしてそれは彼らの死でしかない。主人公はこのガドナスの言う死を「わたしたちの死」として拡大し、またハルバッハの言う死を空虚なものと断ずるけれど、ハルバッハが主著で熱く語った死、虐殺の生き残りであるガドナスの言う死、そして矢吹の言う死、これらの中に真実の死が潜んでいるわけではないのだ。たぶん各々の語られる死を「わたしたちの死」としてしまえば、それは結局ハルバッハの過ちをふたたび繰り返すことになるだろう。矢吹の見出す「無意味な死」もまた、限られた時代の中で、それが「中立=公正な」真実と見なされる限りで否応なしに機能する、有限なものでしかない。これは恒久的なものとしての法の裁きと決定的に対立するものだ。で、その中を事後的な歴史は柔らかに身を捩じらせ潜り抜けていくだろう。正直言って、「支配できない死」を探偵小説で扱おうとする笠井の試みは上手くいってるようには思えない。この方向だと「決意としての死」を冷ややかに嘲るやり方でしか探偵小説として成り立たないだろうし、矢吹君はますますイヤミな男になっちゃうだろう。だから「哲学者の密室」はシリーズ最終作にはふさわしい(どうやらそうじゃないっぽいが)。これは近代探偵小説の起源の探求として書かれた歴史小説である。エンタメ思想書とは呼べないほどには面白いし。 * Ravel: Piano Works (Hideki Nagai) 「クープランの墓」、「夜のガスパール」、他。 いわゆる流れ的なものより縦の線をカチカチに纏める感じはインマゼールの指揮するラヴェルを思い起こさせる。左手がくっきり聞こえて新鮮。ぐにゃぐにゃと柔らかでなく場面転換がカッチリしたデジタルな演奏だから、当然「古風なメヌエット」や「クープラン」のような単純な構成の曲だと芸風がはまりまくる。特に前者は凄い。バラバラとほぐれるような「水の戯れ」もある意味新鮮だ。だけどやっぱり「ガスパール」のような曲だと、技術的にいくら巧くてもソフトな動きがなければ退屈になってしまう。ロルティにはやはり及ばないか。日本人的な演奏と言われれば、そうだと思う。ただ日本人にしてもここまで完成度が高い(あと録音が良い)CDはなかなか無いだろうという説。
08/06 03:58 | 未分類 |
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